機械構造物(ねじ締結体)の締結において、ねじは重要な部品であります。
長所
①必要な時に取り外しが可能。
②機械構造物の修理が可能であり、再利用もできる。
短所
①機械構造物の稼働中にねじがゆるみ、その結果として、機械構造物の運用に不具合が生じ、
事故の発生原因に繋がること。
ねじの定義
ねじ締結およびねじ締結体は、ねじの締付け通則(JIS B 1083:2008)によると、
と定義されています。
メートルねじ
まずは、締結用に多く用いられるメートルねじについて説明します。
ねじの基本構造は、図.2-1にあるように円筒又は円錐の表面につる巻き線に沿う形で螺旋状の溝を入れたものです。
つる巻き線が一回りしたときの高さをl、円筒の半径をr、つる巻き線の接線方向の角度(リード角)をβとするとき、これらの関係は、
式(2-1) となります。
これは、一回り(一周する)するということは、円周を求めることになるので、
直径×3.14ということで、半径r×2×πとなり、分母は2πrとなります。
また、隣り合うねじ山同士の距離であるピッチPは、lに等しくなります。
ここで、βはねじ面の場合には有効径位置におけるリード角、有効径をd2とすると
式(2-2) となります。
一般用メートルねじの基準山形を図.2-2、一般用メートルねじの基準寸法を図.2-3に示します。この基準山形及び基準寸法に寸法公差を適用したものが、実際に使用するボルト・ナットになります。
次におねじ部の応力計算に用いる有効断面積Asについて述べます。
式(2-3) となります。
つまり有効断面積Asは、おねじ有効径d2と谷の径d3の平均値を直径とする仮想の円形断面の面積です。
この有効断面積Asにボルトの降伏点または耐力を乗じたものが、ボルトの降伏荷重となり、引張強さを乗じたものがボルトが負担できる最大荷重となります。
ボルトの強度に関しては、JISの炭素鋼及び合金鋼製締結用部品の機械的性質-第1部:ボルト,ねじ及び植込みボルト(JIS B 1051:2014)にあります。
表.2-1に各呼び径の有効断面積Asの一覧を、表.2-2にボルトの機械的性質-降伏点又は耐力、引張強さに関して抜粋したものを示します。
表.2-1 一般用メートルねじの有効断面積 JIS B 1082:2009
単位 mm2
並目ねじ
|
細目ねじ | |||
ねじの呼び | ピッチ
(mm) |
有効断面積
As,nom |
ねじの呼び | 有効断面積
As,nom |
M1 | 0.25 | 0.460 | M8 ×1 | 39.2 |
M1.2 | 0.25 | 0.732 | M10×1.25 | 61.2 |
M1.4 | 0.3 | 0.983 | M10×1 | 64.5 |
M1.6 | 0.35 | 1.27 | M12×1.5 | 88.1 |
M1.8 | 0.35 | 1.70 | M12×1.25 | 92.1 |
M2 | 0.4 | 2.07 | M14×1.5 | 125 |
M2.5 | 0.45 | 3.39 | M16×1.5 | 167 |
M3 | 0.5 | 5.03 | M18×2 | 204 |
M3.5 | 0.6 | 6.78 | M18×1.5 | 216 |
M4 | 0.7 | 8.78 | M20×2 | 258 |
M5 | 0.8 | 14.2 | M20×1.5 | 272 |
M6 | 1 | 20.1 | M22×2 | 318 |
M7 | 1 | 28.9 | M22×1.5 | 333 |
M8 | 1.25 | 36.6 | M24×2 | 384 |
M10 | 1.5 | 58.0 | M27×2 | 496 |
M12 | 1.75 | 84.3 | M30×2 | 621 |
M14 | 2 | 115 | M33×2 | 761 |
M16 | 2 | 157 | M36×2 | 865 |
M18 | 2.5 | 192 | M39×2 | 1,030 |
M20 | 2.5 | 245 | M42×3 | 1,210 |
M22 | 2.5 | 303 | M45×3 | 1,410 |
表.2-1 一般用メートルねじの有効断面積(続き) JIS B 1082:2009
単位 mm2
並目ねじ
|
細目ねじ | |||
ねじの呼び | ピッチ
(mm) |
有効断面積
As,nom |
ねじの呼び | 有効断面積
As,nom |
M24 | 3 | 353 | M48×3 | 1,600 |
M27 | 3 | 459 | M52×4 | 1,830 |
M30 | 3.5 | 561 | M56×4 | 2,140 |
M33 | 3.5 | 694 | M60×4 | 2,480 |
M36 | 4 | 817 | M64×4 | 2,850 |
M39 | 4 | 976 | - | - |
M42 | 4.5 | 1,120 | - | - |
M45 | 4.5 | 1,310 | - | - |
M48 | 5 | 1,470 | - | - |
M52 | 5 | 1,760 | - | - |
M56 | 5.5 | 2,030 | - | - |
M60 | 5.5 | 2,360 | - | - |
M64 | 6 | 2,680 | - | - |
表.2-2 鋼製ボルト・ねじ及び植え込みボルトの機械的性質 JIS B 1051:2000
強度区分 | 4.6 | 4.8 | 5.6 | 5.8 | 6.8 | 8.8 | 9.8 | 10.9 | 12.9 | ||
単位[N/mm2] | d≦16 | d>16 | |||||||||
引張
強さ |
呼び | 400 | 500 | 600 | 800 | 900 | 1,000 | 1,200 | |||
最小 | 400 | 420 | 500 | 520 | 600 | 800 | 830 | 900 | 1,040 | 1,220 | |
降伏点又は
耐力 |
呼び | 240 | 320 | 300 | 400 | 480 | 640 | 720 | 900 | 1,080 | |
最小 | 240 | 340 | 300 | 420 | 480 | 640 | 660 | 720 | 940 | 1,100 | |
保証荷重応力 | 呼び | 225 | 310 | 280 | 380 | 440 | 580 | 600 | 650 | 830 | 970 |
この規格に関しては、以下のような要求に対しては適用されないことに留意する必要があります。
・溶接性
・耐食性
・耐疲労性
・温度-温度300℃以上の耐熱性又は温度-50℃以下の耐寒性
・耐せん断性(引張荷重に対しての強さであり、せん断荷重に対しては適用外)
表.2-2にある強度区分の小数点前の数字、例えば、4.8の4、10.9の10は、呼び引張強さ[N/mm2]の1/100の値であり、小数点後の数字、8や9は呼び降伏点又は耐力[N/mm2]と呼び引張強さ[N/mm2]の数値との比を10倍した値を表します。
つまり強度区分4.8の場合、呼び引張強さは400N/mm2、呼び降伏点又は耐力は、400×0.8=320N/mm2となります。強度区分10.9の場合は、呼び引張強さが、1000N/mm2、降伏点又は耐力は、1000×0.9=900N/mm2となります。
ここで、引張強さや降伏点又は耐力などのボルトの強度区分を表す力の単位ですが、[N/mm2]でした。また、圧力の単位で知られる[MPa]と同等にあります。
さきほどのボルトの強度区分「10.9」を例にとります。
引張強さは、1,000[N/mm2]、耐力は、900[N/mm2]となりますが、これを別の表現をすると、引張強さは、1,000[MPa]となり、耐力は、900[MPa]で表せます。
1Pa(パスカル)とは、1m2(平方メートル)の平面の上に1N(ニュートン)の力が作用した際の圧力となります。
1Pa=1N/m2です。1m2は、1,000,000mm2です。M(メガ)は、106倍を表す接頭辞です。
従って、1MPa=1MN/m2=1N/mm2 で表せます。
ナットの保証荷重については、JISに、鋼製ナットの機械的性質(JIS B 1052:1998)があります。この規格は、戻り止め性能・溶接性・耐食性・温度300℃以上又は-50℃以下に耐えられるナットには適用しません。
この規格による鋼製ナット(並目ねじ)の強度区分及び保証荷重応力を表.2-3に示します。“強度区分”を表す記号、例えば4の数字は、N/mm2の単位による呼び保証荷重応力の数値400の1/100を表します。
表.2-3に示す実保証荷重応力に有効断面積As(表.2-1)を乗ずれば、そのナットの実保証荷重が得られます。“ナットの実保証荷重”は、そのナットよりも強度の高いマンドレル(等級6gのおねじ部を持つ治具)をはめ合わせ、軸方向に荷重を15秒間加えたとき、ナットが破壊したり、ねじ山がせん断することなくこの荷重に耐えること、また除荷した後、ナットがマンドレルから指で取り外せること(その際、最初の1/2回転は手回しレンチを用いても良い)を保証する荷重です。
鋼製並高さナットの強度区分及びそれと組み合わせる鋼製ボルトとの対応を表.2-4に示します。また、一例を示した表.2-5によれば、ナットの保証荷重応力はボルトの保証荷重応力に対してではなく、引張強さに対応させていることが注目されます。
表.2-3 鋼製ナットの強度区分及び保証荷重応力
(山本晃「ねじのおはなし」日本規格協会) 単位:N/mm2
高さの区分 | 並高さナット(*1) | 低ナット(*2) | ||||||||
強度区分 | 4 | 5 | 6 | 8 | 9 | 10 | 12 | 04 | 05 | |
呼び保証荷重応力 | 400 | 500 | 600 | 800 | 900 | 1000 | 1200 | 400 | 500 | |
実保証荷重応力 |
d≦4 |
- |
520 | 600 | 800 | 900 | 1040 | 1150 |
380 |
500 |
4<d≦7 | 580 | 670 | 855 | 915 | 1040 | 1150 | ||||
7<d≦10 | 590 | 680 | 870 | 940 | 1040 | 1160 | ||||
10<d≦16 | 610 | 700 | 880 | 950 | 1050 | 1190 | ||||
16<d≦39 | 630 | 720 | 920 | 920 | 1060 | 1200 |
注
(*1)呼び高さがねじの呼び径dの0.8倍以上のナットで、六角ナット・スタイル1、六角ナット・スタイル2及び部品等級Cの六角ナットが該当する。
(*2)呼び高さがねじの呼び径dの0.5倍以上0.8倍未満のナットで、六角低ナットが該当。
表.2-4 鋼製並高さナットの強度区分及び組み合わせる鋼製ボルトとの対応
(山本晃「ねじのおはなし」日本規格協会)
並高さナットの
強度区分 |
組み合わせるボルト | |
強度区分 | ねじの呼びの範囲 | |
4 | 3.6,4.6,4.8 | M16を超えるもの |
5 | 3.6,4.6,4.8 | M16以下 |
5.6,5.8 | M39以下 | |
6 | 6.8 | M39以下 |
8 | 8.8 | M39以下 |
9 | 8.8 | M16を超えM39以下 |
9.8 | M16以下 | |
10 | 10.9 | M39以下 |
12 | 12.9 | M39以下 |
備考 一般に高い強度区分に属するナットを、それより低い強度区分のナットの代わりに使用することができる。
表.2-5 ボルトとナットの保証荷重応力比較例(並高さナットM20の場合)
強度区分(ボルト) | 4.8 | 5.8 | 6.8 | 8.8 | 9.8 | 10.8 | 12.9 |
引張強さ | 400 | 500 | 600 | 800 | 900 | 1000 | 1200 |
呼び保証荷重応力 | 310 | 380 | 440 | 600 | 650 | 830 | 970 |
強度区分(ナット) | 4 | 5 | 6 | 8 | 9 | 10 | 12 |
呼び保証荷重応力 | 400 | 500 | 600 | 800 | 900 | 1000 | 1200 |
実保証荷重応力 | - | 630 | 720 | 920 | 920 | 1060 | 1200 |