金属の損傷について「疲労破壊」その3

2021.02.08

ねじの疲労強度

疲労破壊とは、一定荷重もしくは変動荷重が繰返し負荷される応力条件下の場合に前触れなく突然起こる破壊現象です。負荷される荷重として通常は外力です。ねじ部品(ボルト、ナット)に外部から変動荷重である外力が作用すると疲労破壊の発生につながります。疲労破壊は降伏応力や耐力といった塑性変形が起こらない、かなり小さな繰返し応力下でも発生しますので注意が必要です。疲労破壊は各種破壊現象の中で発生頻度が最も高いものです。

 

ねじの疲労破壊部位

ねじ締結体(ボルト・ナット)においてボルトに軸力が負荷された場合、ボルトのねじ山とナットのねじ山が互いにフランク面で圧縮方向に荷重がかかった状態になります。この場合、ボルトの各ねじ山が軸力に相当する全荷重を分担して支えることになりますが、全荷重が各ねじ山に均等に分担されるのではなく各ねじ山に荷重がある割合で分担されます。この荷重分布における分担率をねじ山荷重分担率と呼びます。この荷重分布パターンは、ねじの種類、使用形態によって変わります。下図はねじ締結体の荷重分布のイメージ図です。ねじ締結体ではボルト軸力によってボルトは引張力、ナットは圧縮力を受けますが、ナット座面に最も近いボルト第一ねじ山が最も大きな荷重を受け持ちます。荷重分担率はナット頂面側に向かって次第に減少していき、各荷重分担率の総和は100%です。なお、最近の有限要素法による解析ではねじ山荷重分担率が最終のねじ山でわずかな上昇が見られる分布パターンも見受けられます。第一ねじ山の荷重分担率は目安としては約30%程度の大きさです。

ここで、ボルト第一ねじ谷にかかる応力を考えてみます。下図のような配置の場合、ナットの各ねじ山がボルトの各ねじ山と接触するフランク面で互いに圧縮荷重が働き、ナットのねじ山がボルトのねじ山を上方向に押すような形で荷重が加わり、その結果ボルトが引っ張られた状態になります。最も下に位置するボルト第一ねじ谷にはボルトの各ねじ山で分担される荷重の総和である全荷重がかかることになります。全荷重を有効断面積で割った値(公称応力)が軸力です。すなわち、第一ねじ谷には軸力による軸方向の引張応力が作用することになります。

疲労破壊は応力集中部が起点となります。ねじ締結体における応力集中部は、ボルト第一ねじ谷底、ねじの切り上げ部、ボルト頭部首下が該当します。この中でボルト第一ねじ谷底が最も負荷応力が高くなる箇所で、通常この付近から疲労破壊が発生します。これは第一ねじ谷底は軸力による軸方向の引張応力が各ねじ谷底の中で最も強く作用する箇所であるからです。また、ボルトねじ山にかかる荷重から曲げモーメントによってねじ谷底に口開き変形の応力が作用するとも考えられますが、この場合もねじ山荷重分担率が最も高い第一ねじ山からの曲げモーメントが働く第一ねじ谷底の応力が最大となります。ねじ締結体ではねじ山荷重が集中する第一ねじ谷底の最大応力によって疲労強度が支配されます。次に、ねじの切り上げ部はねじ山谷の連続切欠きの端部に位置するため、端部から離れた遊びねじの谷底よりも連続切欠きの干渉効果によって応力集中係数がわずかに高くなります。ボルト頭部首下の応力集中係数は先の2か所よりも小さいです。

実際の疲労破壊では負荷応力のかかり方の偏りや、加工疵、R不足とかの不確定要因によって、ねじの切り上げ部またはボルト頭部首下が先に疲労破壊するケースもあります。

ねじの疲労限度

ねじ部品(ボルト、ナット)の疲労設計はS-N曲線を用いて行われます。ねじ部品の疲労限度は材料と荷重形態以外に、ねじの呼び径とピッチ、ねじ谷底の丸み、表面状態に強く影響を受けるため、平滑材からの推定では誤差が大きくなります。設計に使うべき信頼できるデータとしては実測値になります。

S45C調質材を用いたM8x1.25切削ボルト単体について片振り引張によって疲労試験して求めたS-N曲線の例を示します。疲労限度は約80MPaとなりました。当該材料の平滑材試験片について引張試験した結果、引張強さは804MPaでした。なお、いずれの測定点でもボルト第一ねじ谷で疲労破壊しました。

ここで、推定になりますが切欠き係数について考えてみたいと思います。平滑材の疲労限度は両振り引張圧縮では引張強さの40%と仮定すれば322MPaになります。両振りから片振りへの換算は疲労限度線図の修正グッドマン線図を使って換算すると230MPaが得られます。ボルトねじ谷の表面係数が不明ですが切削加工であるので仮に1とすれば、切欠き係数は230/80=2.9となります。ボルトは平滑材に比べてねじ谷における応力集中によって疲労限度が大きく低下します。ねじ谷の切欠き形状に基づく応力集中の度合は応力集中係数(形状係数)と呼び、この応力集中による実際の疲労限度の低下割合の逆数を切欠き係数と呼びます。ボルト第一ねじ谷の応力集中係数は一般的に4を超えると言われていますが、ボルト疲労破壊における切欠き係数は応力集中係数よりも小さくなります。

 

ボルトの疲労限度について考えてみます。

ボルト材料の引張強さが増加するほど同一形状のボルトでは疲労限度も増加しますが、高強度材になるにつれて疲労限度の上昇の程度は緩くなります。これは同じ応力集中係数を有するねじ谷であっても高強度材になるほど切欠き感度係数が増加して切欠き係数も上昇するためです。

下図はM2(ピッチ0.4)、M12(ピッチ1.75)、M64(ピッチ6)並目ねじについて、ねじ谷の切欠きの大きさの程度を見るために便宜的にねじ山外径寸法を揃えてねじ形状を図示したものです。各ボルトのねじ谷形状は相似形ではなくて、呼び径が大きくなりますと相対的にねじ谷の切欠き半径が小さくなり応力集中が高くなることがわかります。同一材料のねじ部品(ボルト、ナット)で呼び径が大きくなりますと応力集中係数が増加するため、疲労限度も減少する傾向となります。呼び径が同じ場合はピッチが小さい方が疲労限度も低くなる傾向があります。並目ねじと細目ねじの疲労の差異に関しては、細目ねじの方がねじ山の数が多くて各ねじ山荷重分担率が減少し、ねじ谷底にかかる曲げモーメントが減少する効果が考えられますが、一方では細目ねじのピッチは並目ねじに比べて小さいため、ねじ谷の切欠きが強くなって応力集中係数も増加して不利に働く要素もあります。

なお、転造ボルトは切削ボルトより疲労限度が1.6~2倍程度向上することが一般的に知られています。これは、転造加工によって表面に圧縮応力が残留する効果が主に効いていると考えられています。

 

 

ねじ締結体の疲労強度

ねじ締結体(ボルト・ナット締結体)を考えてみます。締結状態ではボルトに引張力、被締結体に反力による圧縮力が作用しています。軸力で締め付けたボルト・ナット締結体に軸方向の外力が繰返し作用した場合に疲労現象が起こります。この疲労現象はボルト側、ナット側両者に起こりますが、ボルトとナットが同一材料であればボルト側のねじ谷底にかかる応力が最大となるため、通常はボルト側が疲労破壊に至ります。この軸方向の繰返し外力に対する疲労強度評価を適切に考慮して設計しないとボルトの疲労破壊に繋がることがあります。

ボルト・ナット締結体に軸方向に外力が作用するとボルト軸部に引張力(内力)が誘起されて軸力が増加しますが、この関係を示した図がボルト締付け線図といわれるものです。従来からボルト・ナット締結体の疲労強度評価に広く用いられています。

ボルト締付け線図において縦軸はボルト軸力、横軸はボルトの伸びと被締結体の縮みを表しています。ボルトの引張力と伸びの関係(傾き:引張ばね定数)、被締結体の圧縮力と縮みの関係(傾き:圧縮ばね定数)を表しており、ボルト初期軸力の点で交差させてボルト引張力と被締結体圧縮力がバランスする状態を示しています。被締結体を離すように外力W2が加わるとボルトおよび被締結体に作用する力は図のように変化します。外力の一部がボルト軸力の増加分として作用し、外力の一部が被締結体圧縮力の減少分として作用します。ボルト側で、外力に対する内力の比率を内力係数あるいは内外力比と呼びます。ボルト・ナット締結体では適切な軸力で締結されていれば外力が作用してもボルト軸部に作用する内力はかなり小さくなります。

ボルト・ナット締結体を軸方向の繰返し外力が作用する使用環境で使う場合、初期軸力を適切に加えて設計上安全な状態であっても、種々の要因でボルト・ナットが緩んで軸力が低下してしまいますとボルトにかかる軸方向の応力振幅が相当大きくなって疲労破壊に至る可能性が高まります。実際、ボルト・ナットの緩みがボルトの疲労破壊の原因の一つになっています。それゆえ、ナットのゆるみ止め対策は特に振動がかかる使用環境下ではボルトの疲労破壊を未然防止する上で必須であると言えます。

 

ねじ締結体の疲労破壊対策

ねじ部品(ボルト、ナット)が緩みますとボルト軸力の変化量(内力)が大きくなり疲労破壊が発生して思わぬトラブルに繋がることになります。ボルトの疲労破壊を防ぐ対策について、ねじ部品の緩みの防止だけでなくさらに広範な観点から考えてみます。前コンテンツの疲労強度安全設計の項目で説明しましたように、疲労寿命設計ではS-N曲線で示される疲労強度(疲労限度)と負荷応力との関係で寿命が求められます。ボルトの疲労破壊防止対策として、ボルトそのものの疲労強度(疲労限度)を上げる対策、振動外力に対する内力係数を下げてボルトにかかる負荷応力振幅を低減する対策、さらに被締結体構造側の設計上の工夫によって負荷応力低減に繋げるといったアプローチが考えられます。

例えば、静的強度が許容する範囲でボルト軸力を高くすること、伸びボルトとか中空ボルトなどの剛性の低いボルトを使用すること、同じ荷重を複数ボルトで負担する場合は細い径のボルトを沢山使用することなども考えられます。実際には構造設計上いろいろと制約があることが多いものです。端的に言いますと、転造ボルトおよびゆるみ止めナットを使用することが疲労破壊防止の上ではかなり有効な対策であると考えられます。

 

 

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