なぜボルト・ナットはゆるむのか?
ボルト・ナットのゆるみを物理的に定義すると「締結力(ボルト軸力)が低下する」と定義できます。
ではこの締結力が低下する要因はどのようなものがあるかというと、大別して「ねじ部の非回転のゆるみ」と「ねじ部の回転によるゆるみ」の大きく2つに分けることが出来ます。ゆるみ止めを考える際は、この2つの要因から検証することが必要です。
ねじ部の非回転のゆるみ
ねじの非回転のゆるみとは、主に取り付け時の問題や、個別のボルト・ナット製品選定のミスマッチに起因する問題によるものです。非回転のゆるみにおける原因は大きく4つあり、適切な準備・取付、最適なボルト・ナットの選定により、大部分のゆるみを防ぐことが可能です。
非回転ゆるみの原因①:初期なじみ
接合面に微細な凹凸などがある場合、圧力をかけるとその凸凹が平坦化される場合があります。ねじなどの機械部品において接合面の微細な凹凸を事前に平坦化することを「なじみをとる」とか「あたりを付ける」とか表現しますが、この処置が十分でない場合ねじを締め付けた後の外力により平坦化が進行する場合があります。この結果発生する遊間が「ガタ」となりゆるみの原因となります。接続部の表面が均一であればあるほど平坦化は進行しにくくなります。ねじにおいては締結後「増し締め」を行うことで初期なじみによる遊間を排除しゆるみの進行を抑制することができます。
非回転ゆるみの原因②:陥没ゆるみ、過大締付けなど外力によるゆるみ
ボルトの座金部が締結時に下図のように締結対象に陥没、締結対象が塑性変形してしまうことがゆるみの原因へとつながります。特に締結対象の剛性の不足や大きな軸力が掛かる締結部で起こりやすい事象です。
この事象もある程度の進行で止まりますが発生する遊間が「ガタ」となりゆるみの原因となります。
この場合は締結部の変形を起こさないための対策が必要であり、座面の陥没を防ぐ高強度、高剛性平座金を選定・使用することで陥没ゆるみの発生を抑えることができます。
非回転ゆるみの原因③:微動摩耗によるゆるみ
接合部の面圧が十分でない場合、外力等の影響で接触部の微細振動による摩耗が発生します。これを微動摩耗を言います。微動摩耗により表面が平坦化し、発生する遊間が「ガタ」となりゆるみの原因となります。まず適切な面圧を与え微動摩耗の発生を抑制することに加え、浸炭や窒化などの表面硬化処理による締結体表面の強度向上が有効です。
非回転ゆるみの原因④:熱的原因によるゆるみ
非回転ゆるみの原因の4つ目は、熱的原因によるゆるみです。締結部が熱的な影響を受けることで、膨張、あるいは収縮することで発生します。熱によって物理的に素材の体積が変わってしまうため、軸力が喪失あるいはボルト・締結対象が損傷という結果がもたらされます。対策としては、材料の線膨張係数を考慮した設計を行うことで影響を抑えることができます。
ねじ回転によるゆるみ
締結状態のボルト・ナットには下図(1)のように力が掛かった状態にあります。
この状態の締結部に対して、外力が加わると(2)、のような変化が生じます。横からの外力が加わるとボルト・ナットは弾性変形を生じ、下図のような変化が生じます。
この例ではボルト軸直角方向に対しての外力が加わっていますが、他にもねじ回転を誘発する外力が存在します。
ボルト・ナットに加わる3つの外力
ボルト・ナットに加わる外力には、
① ボルト軸方向
② ボルト軸直角方向
③ ボルト軸回り方向
の3種類があり、この3つの力のいずれか、あるいは複合的な力が締結部に繰り返し加わることで、すなわちねじ回転(=ゆるみ)が生じてくるのです。
ボルトに加わる繰り返し荷重
ハードロック工業の製品においては、このねじ回転によるゆるみをいかに防止するか、という点に注目して開発を行っており、他社のゆるみ止め製品と比較しても圧倒的に優れたゆるみ止め特性を持っています。
参考文献
山本 晃 (2005) :ねじのおはなし p79 日本規格協会