ねじ締結で加わる力
安全なねじ締結を行うには、十分な初期締付け力Fが必要であり、その為には適切な締付けトルクTで締付けを行わなければなりません。図1はねじ締結体内部の力の作用を示しています。つまり締付けトルクTによって、ボルトは引っ張られて内部に初期軸力Ffが発生します。また、同時に同じ力でボルト頭部とナット座面で被締結材を圧縮し、挟み込んでいます。
図1 締結状態における締付け力の作用
写真1 ナットを挿入した場合 写真2 ボルトに軸力が発生した状態
写真1は、ボルトにナットを挿入した状態で締付け力F =0の状態であり、写真2は締付けトルクT によって初期締付け力Ffが発生した状態のはめ合いねじ部の切断面の写真です。おねじとめねじのかみ合い具合を、写真1と比較する(青矢印の箇所)と、写真2の初期締付け力Ffが発生している状態では、めねじのねじ山がおねじのねじ山を押し上げていること、つまりボルトが引っ張られていることが分かります。
このねじ締結体の安全性は何によって保証されるか?というと、初期締付け力Ff又は締付け軸力であり、管理する方法として、トルク法等が用いられます。
ここで、初期締付け力Ff、締付け力、締付け軸力、締付けトルクT、トルク法とは、ねじの締付け通則(JISB 1083:2008)によると、
とあります。次に締付け方法を取り上げ、それぞれの締付け方法の特徴について触れます。
締付け方法について
ねじ締結体の安全性は締付け力によって保証され、その締付け力は締付けトルクによって管理される、と先に触れました。実際の作業現場での締付け作業において、直接ボルトの軸力を計測しながらの締付け作業を行うことは困難であります。そのため潤滑剤の使用、ボルト・ナット・被締結材の接触面の状態(表面粗さやうねり)からトルク係数を推定し、必要な軸力を設定したのち目標締付けトルクを算出する方法が一般的な締付け方法と思われます。
では、この締付け方法で問題となる点は何か? つまりねじ締結体のゆるみ・疲労破壊を防ぐ適切なねじの締付けを行うことが何故難しいのか? ねじ締結体においてゆるみ・疲労破壊が発生する原因は、締付け力不足または締付け力の低下が主な要因です。締付けの際に生じる軸力のばらつきにより、ねじ締結体に加えられる外力の大きさに対して十分な締付け力が得られていない場合には、ねじ締結体にゆるみが発生し脱落、もしくは疲労破壊が起こるからです。
ねじ締結体の締付け方法の特徴は、大きく分けて2つあります。弾性域締付けと塑性域締付けです。この弾性域締付けと塑性域締付けとは、ねじの締付け通則(JIS B 1083:2008)では以下のように定義されています。
図2 ボルトの伸びと締付け軸力との関係( JIS B 1083:2008)
ねじの締付けの際に生じる軸力のばらつきは、締付け係数Qで表され、初期締付け力の最大値を Ffmax、最小値をFfminとし、
とされます。各締付け管理方法を以下の表1に示します。
表1 代表的なねじ締付け管理方法(JIS B 1083:2008)
表1にあるように、トルク法によるねじ締付けよりも回転角法による塑性域締付けの方が、締付け係数Qの値が小さい、つまり軸力のばらつきが抑えられるといえます。しかし過大外力が作用した場合、塑性域締付けの方が弾性域締付けよりもゆるみやすいとされます。
ねじの締付け通則6.2 トルク法締付け内、6.2.1. トルク法の特性(JIS B 1083:2008)に
と記載されている。
図3 締付けトルクと締付け軸力との関係 トルク法締付け(JIS B 1083:2008)
図3では、締付けトルクT(横軸)を基準にして、締付け軸力F(縦軸)が縦方向に大きくばらついていることを示しています。ねじの締付け作業を行う現場において、同じ締付けトルクで締付けしたので同じ軸力が得られていると思ってしまうとねじのゆるみに繋がるケースがあります。つまり、ねじの締付けはこの軸力のばらつきを考慮しておく必要があります。
図4 締付けトルクT-ボルト軸力Ff-摩擦係数μ-降伏応力σy線図(M20)
図4では、更に、摩擦係数により同じ締付けトルクTでも与えられるボルト軸力Ffが変化することがわかります。摩擦係数が小さいと締付け時のボルト軸力が高くなります。また、摩擦係数が大きいと目標軸力に達する前にボルトが降伏点に達してしまうということも示しています。
従って、ボルト締結する際には目標ボルト軸力に見合った強度区分(降伏応力)・摩擦係数の選定が重要です。
そのため、適切なねじ締付けを行うためには、締付けトルク、初期締付け力に大きな影響を与える摩擦係数を良く理解する必要があるといえます。