ゆるみ止めナットのうち、座面抵抗形と呼ばれるものは、ナット座面にセレート(serrate:鋸歯状。凹凸のギザギザ形状のこと。セレーション(serration)ともいう)を設け、これを被締結部材に食い込ませることで、ゆるみ止め効果を生じさせるものです。フランジ付き六角ナットでもセレートを設けたものが広く使われていますが、セレートなしフランジ六角ナットの効果と併せて説明します。なお、ゆるみの種類とそれらに対するゆるみ止め方法につきましては、ねじ締結技術ナビ お役立ち資料の「ねじ締結体のトラブル原因と対策 -回転ゆるみ編-」と「ねじ締結体のトラブル原因と対策 -非回転ゆるみ編-」にてまとめられておりますので、ご参考にしていただければ幸いです。
フランジナットとは
フランジ付き六角ナット(以下、フランジナットと同じ)はJIB B 1190で規格化されており、六角ナット座面に六角の対角距離よりも大きい径のつば(フランジ)が付いています。この形状にすることで、六角ナットに平座金の機能を付与しています。フランジナットにはセレートなしとセレート付きがあります(図1)。
セレートなしフランジナットの効果
フランジナットは、セレートがないものでも以下の2点について効果があると考えられています。
・部品点数、工程数の削減
六角ナットに平座金の機能を付加することで、締結部品点数の削減が図れます。従って、平座金を入れる工程を省くことができます。また、平座金を入れ忘れる、落としてなくすなどの作業工程のミスを防ぐことができます。
・座面部の陥没防止
ナットの座面面積が小さい場合には、座面面圧(座面にかかる荷重 ÷ 荷重を受ける面積)が大きくなるため、被締結部材の座面部が陥没しやすくなります。これを防ぐためには、座面面積を大きくするためにフランジをつけます。座面面圧を小さくすることにより座面部の陥没を防ぐ効果があります。
セレート付きフランジナット
セレート付きフランジナットは、フランジナット座面のセレートを被締結部材に食い込ませることで、ゆるみ止め効果を生じさせるものです。
座面のセレートは被締結部材に食い込ませるのが目的であるものの、セレート付きのボルト・ナットを締付けると座面が荒れて(傷がついて)しまいます。座面が荒れると、座面摩擦係数が大きくなるとともに座面の状態にばらつきが生じることも考えられます。従って、軸力にばらつきが生じる可能性に注意する必要があります。
セレート付きでは、被締結部材に凹凸のギザギザを食い込ませるため、座面の面圧が大きくなり、ナットの戻り回転を防ぐことによって塑性変形が進行する可能性があります。そのため、塑性変形の進行による非回転ゆるみが生じないか、ゆるみ試験を実施して確認する必要があります。
座面抵抗形では、一度の締結で座面が荒れてしまい、再使用する上で望ましくない場合もあるため、この点も考慮する必要があります。
また、座面の凹凸程度や被締結部材が硬い場合には、セレートがほとんど食い込まず、回転抵抗が生じない場合もあります。そのため、ナット座面が滑る(セレートが食い込んでいない)状態でもゆるみ試験を実施して、性能を確認する必要があります。
最後に、セレート付きのナットを使う場合はボルト頭部の座面もセレート付きのものを使用することが望ましいです。なぜなら、ナット座面には戻り止め効果(セレート)があっても、ボルト座面に無ければ効果が半減してしまうためです。
参考文献
- 山本 晃:おはなし科学・技術シリーズ ねじのおはなし(改訂版),日本規格協会 (2003)p. 44-45.
- 監修 山本 晃,編集委員長 渡辺 昭俊:JIS使い方シリーズ ねじ締付機構設計のポイント(改訂版),日本規格協会 (1973).
- 酒井智次:増補ねじ締結概論,養賢堂(2003)p, 128-132.