引張り応力σとせん断応力τについて
ボルト・ナットを締結する際に、ねじ締結体における締付けトルクと軸力の関係で留意すべき点は、大きく分けて以下の2点であると考えられます。
(1)締付けトルクが、ボルト・ナットの強度に対して大きすぎる場合
(2)締付けトルクが、ボルト・ナットの強度に対して小さすぎる場合
(1)の場合では、締付けトルクの大きさに応じて軸力も大きくなるために、多くの場合ボルトは塑性変形を起こし破損もしくは破断します。
(2)の場合では、軸力も低くなるために以下の事象の発生が考えられます。
A.外力等が作用することでゆるみが発生し、締結箇所からボルト/ナットが脱落する。
B.繰返し外力が作用し、疲労破壊が起きる。
C.過大外力が作用した場合、ボルトが負担する外力の割合が大きくなり破損する。
A、B、Cは個別の事象とは限らず、同時に発生する場合が多々あります。
ここでは、締結時にボルト内部に発生する応力を確認し、(1)締付けトルクが大きすぎる場合におけるねじの破損について取り上げます。
ねじ締結の際には、ボルト内部には軸力Fとねじ部トルクTsが作用し、締付け後にはねじ部トルクTsは残留ねじ部トルクTs´に変化するものでありました。
図1.図2.にある円筒は、断面積がボルト内部に軸力Fが作用することによって、引張り応力σが、図2.ではねじ部トルクTsもしくは残留ねじ部トルクTs´が作用することで、有効断面円筒表面にせん断応力τが発生していることを示しています。
つまり、ねじ締結の際には図1.図2.が同時に起きているのであり、ボルト内部には引張り応力σとせん断応力τがともに作用しています。
このように複数の応力が作用していることを「組合せ応力」と言います。
ここに、
図1.Fとσ 図2.T(Ts)とτ
As:有効断面積、ds:有効断面円筒の直径 とおくと、
ボルト内部に発生する引張り応力σは、
(1-1)
ねじ部トルクTsが発生しているとき、有効断面積表面におけるせん断応力τは、
(1-2)
であり、μs:ねじ部の摩擦係数として、
(1-3)
式(1-2)に式(1-3)を代入して、
(1-4)
引張り応力σとせん断応力τの比は、式(1-1)と式(1-4)より、
(1-5)
また、平均的な値として、d2/ds=1.05、tanβ=0.044、μs=0.15とおくと、
τ=2・1.05・(0.044+1.15・0.15)
=0.455σ (1-6)
となります。