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ステンレス鋼の応力腐食割れ(金属の損傷)

2020.11.27

ステンレス鋼の応力腐食割れ

 

応力腐食割れは特定の金属材料が降伏点以下の低い引張応力下で特定の腐食環境で脆化して割れる現象です。応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking)は略してSCCと呼ばれます。

ステンレス鋼は耐食性の優れた鉄鋼材料として製品分野からネジ、ボルト・ナットなどの部品にわたるまで幅広く利用されています。ボルト・ナット部品としてもSUS304、316、XM7等のオーステナイト系、SUS430等のフェライト系、SUS410等のマルテンサイト系、SUS329J4L等の二相系、SUS630等の析出硬化型といった各種ステンレス鋼が使用されています。

非常に有益な鉄鋼材料であるこれらステンレス鋼は、品質安全の観点からは特にSCCに対して注意しなければならない材料でもあります。実際、ステンレス鋼におけるSCC損傷事例が各種産業分野から一般家庭用品にわたるさまざまな装置とか部品で知られています。

本コンテンツでステンレス鋼のSCCについて詳しく説明します。

 

各種ステンレス鋼のSCC

ステンレス鋼はクロム含有率を10.5%以上、炭素含有率を1.2%以下とし、耐食性を向上させた合金鋼のことで、オーステナイト系、フェライト系、マルテンサイト系、二相ステンレス、析出硬化型があります。ステンレス鋼が応力と腐食の両者の作用によって割れる現象についてそのメカニズムを見てみますと、鋭敏化によって結晶粒界が割れるもの、塩化物濃縮によって応力腐食割れするもの、水素脆化によって結晶粒界が割れるものに分類できます。これらの割れを全て応力腐食割れと広義に考えることもできて、この考え方に立てばいずれの系統のステンレス鋼においてもSCCが発生する可能性があります。

鋭敏化型は、結晶粒界にクロム炭化物が熱履歴の原因で析出することで粒界の耐食性が劣化する現象です。結晶粒界付近にクロム欠乏層ができるとクロム炭化物とクロム欠乏層との間で化学的なミクロ電池が形成されて粒界が選択的に腐食されて粒界割れにつながります。

塩化物濃縮型は孔食などのすきま部に塩素イオンが濃縮されて腐食が進行するとともに引張応力の作用で粒内割れに至る現象です。不動態皮膜表面が外力とか残留応力などの引張応力によってすべりステップといわれる微小な段差が発生して、まず不動態皮膜が破壊されます。その破壊部分を起点としてき裂が成長し、き裂新生面が化学的な活性点となって金属が溶解して水素イオンが放出されます。水素イオンは還元されて水素原子となりマトリックス中に拡散して原子間結合力を弱め、引張応力集中による塑性変形と金属溶解・水素拡散の作用によってき裂が進展していきます。

水素脆化型はマルテンサイト系とか析出硬化型ステンレス鋼の高強度鋼(引張強さの目安で約1200MPa以上)において水素の吸収で結晶粒界の強度が劣化して粒界割れする現象です。HE(Hydrogen Embrittlement)や遅れ破壊とも呼ばれます。水素の吸収・脆化割れはメッキや酸洗い処理で起こることがあり、高力ボルトなどでも発生して問題となることがあります。対策としてはベーキング処理が有効です。水素脆化の感受性は、マルテンサイト系のSUS420J2とかSUS410の方が析出型のSUS630よりも高いといわれています。

 

 

ステンレス鋼の割れ事象でSCC発生の懸念が考えられる場合、ミクロ破面観察でSCCタイプを推定することが可能です。鋭敏化型は粒界割れ、塩化物濃縮型は扇形を意味するファンシェイプトパターン、水素脆化型は粒界割れ破面にミクロボイドなどの微小欠陥が共存して観察されるミクロ破面となります。

ステンレス鋼の鋭敏化を確認する試験方法としてJIS G 0571にステンレス鋼のしゅう酸エッチング試験方法が規定されています。試験液を10%しゅう酸溶液とし、20~50℃で断面を電解エッチングし、結晶粒界の状態を顕微鏡観察する方法です。溝状組織と呼ばれる結晶粒界が選択的に著しく腐食された状態が観察されれば鋭敏化と判断されます。

ステンレス鋼の応力腐食割れ試験方法としては、JIS G 0576にA法とB法の2通りの方法が規定されています。A法は試験液を42%塩化マグネシウム溶液として143℃で試験体を浸漬保持し、一定時間ごとに割れの発生の有無を確認する方法、B法は試験液をpH3.5の30%塩化カルシウム水溶液として80℃で試験体を浸漬保持し、一定時間ごとに割れの発生の有無を確認する方法です。

 

オーステナイト系ステンレス鋼のSCC

ステンレス鋼の中でもオーステナイト系は代表的な鋼種であることから、当該材料のSCCについて詳しく説明します。本ステンレス鋼のSCCには、メカニズムとして主に鋭敏化型と塩化物イオン濃縮型の2通りあります。鋭敏化型は、粒界割れすることからIGSCCとも呼ばれ、結晶粒界の鋭敏化が原因であるため常温でも発生します。一方、塩化物イオン濃縮型は海水由来の塩化物などが材料の隙間部で濃縮されて結晶粒内で割れることからTGSCCとも呼ばれ、およそ50℃以上の温度で発生します。鋭敏化型は製造工程の熱管理でかなり防止することも可能ですが、塩化物濃縮型SCCは長期間の使用中に突然割れたりするので予想外の事故に繋がることもあります。

 

鋭敏化とは結晶粒界にステンレスの構成必須元素であるクロムの炭化物が析出し、このため粒界周囲にクロム量が低下したクロム欠乏層が発生することを云います。本ステンレス鋼で鋭敏化が起こるとマイルドな塩水環境とか塩素イオンは含まない高温水などで粒界割れを起こしたりします。原子炉の配管などでは高温高圧の純水中で溶存酸素量が高いと鋭敏化されたSUS304が粒界割れを起こす現象があって問題になったりします。鋭敏化は熱履歴が原因であり、高温安定相であるオーステナイト相からの冷却過程で冷却速度が遅いと鋭敏化現象が起こります。つまり、材料製造の熱処理工程で冷却速度が遅かったりすれば起こり得ますし、材料の使用中に高温で長時間保持したり、また溶接工程で長時間加熱したりすることでも起こり得ます。

鋭敏化に関わる高温域はおよそ450℃から800℃まであって、材料の熱履歴条件がこの温度域に入れば鋭敏化が起こります。ステンレス鋼中のC量が少ないL材と称される鋼種では鋭敏化するまでの時間が長時間側に伸びます。極低炭素のステンレス鋼が鋭敏化型SCCに強い材料になります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

塩化物イオン濃縮型のSCCが発生しやすい条件としては、①引張応力が高いこと、②塩素イオン濃度が高いこと、③温度が高いことが挙げられます。SUS304について引張応力と破断時間の関係を求めますと、SCCはおよそ100MPa以上で発生し、応力が高くなるにつれて破断時間は急激に短くなります。

 

SUS304について塩素イオン濃度と破断時間の関係を求めますと、塩素イオン濃度が高くなるほど破断時間は短くなります。また温度が高いほど破断時間は短くなります。

一般的な機械構造物では応力条件や使用環境条件の変更は困難な場合が多いですが、SCC発生の懸念が考えられる場合は割れ感受性の低い材料に変更することが望まれます。オーステナイト系ステンレス鋼の塩化物によるSCCでは、オーステナイト相の安定化元素であるNi量を増やすとか、あるいは起点が孔食とかすきま腐食であることから次に示す孔食指数の値を高めることが耐SCCに有効であることが従来から知られています。

孔食指数としてCr+3.3Mo+16Nの値が用いられます。ここで、Cr,Mo,Nは各元素の含有量(%)です。この数値が高いほど耐SCC性能にも優れることになります。SUS304よりもMoを添加したSUS316、Ni量が多いSUS310Sの方が耐SCC性能に優れています。Ni,Mo含有量を高くして孔食指数を40以上まで高めたスーパーオーステナイト系SUSなども近年開発されています。

オーステナイト系以外の選択が可能な場合、フェライト系は塩化物濃縮型のSCCが発生しないことからSUS430やSUS444などのフェライト系を使用することも効果的です。また、オーステナイト相とフェライト相とが混在した組織である二相ステンレス鋼はSCCに強く、塩化物に対する耐食性も良好であるため化学プラントなどに利用されています。二相ステンレス鋼であるSUS329J4L(孔食指数34)とかスーパー二相ステンレス鋼(孔食指数40以上)はSCCに対して優れた耐性を持ちます。

 

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