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応力評価の方法(金属疲労)

2022.03.01

S-N曲線と応力評価

金属疲労は機械構造物を構成する金属部材の破壊事故の中で最も多い発生原因でありますが、その疲労に対する安全対策として金属部材のS-N曲線を用いた寿命予測が行われます。S-N曲線は疲労に対する安全設計のための基本的な試験データであります。図1に示されるように、S-N曲線では負荷応力を評価し、それに対する疲労寿命が求められます。この負荷応力が複数ある場合は一般にマイナー則と呼ばれる線形累積損傷則を用いて疲労寿命が求められます。そして、S-N曲線の疲労限度以下に小さな負荷応力があった場合も実際には疲労寿命にかなり影響することから、S-N曲線における傾斜部を直線で疲労限度以下まで延長し、すべての負荷応力に対して線形累積損傷則を適用する修正マイナー則という方法が採られます。(参照:ねじ締結技術ナビ ➡ 実機材の疲労強度(金属の損傷)

S-N曲線を用いた寿命設計ではこの負荷応力を求める応力評価が重要であります。S-N曲線において繰返し応力の応力振幅が負荷応力になります。

図1.S-N曲線における負荷応力と疲労寿命

図1.S-N曲線における負荷応力と疲労寿命

 

繰返し応力には応力振幅が一定の場合と変動する場合があります。応力振幅が一定の場合としては、機器起動時のオンオフによって部材に応力が繰返しかかるケースや、一定条件で繰返し運動する機械構造物の部材などが想定されます。一方、種々の条件で稼働する機械構造物では繰返し応力が時間に対して変動して変動応力となりますし、当然ながら自然環境から応力を受ける構造物も変動応力になります。機械構造物の実際の使用中では変動応力を受けるケースが多いと思われます。本コンテンツでは一定応力振幅について説明します。
図2は、応力振幅が一定の場合の繰返し応力を示したものです。時間に対して応力がある応力振幅で繰返し変化しますが、ここでいう応力は公称応力を意味します。公称応力は物体にかかる力(荷重)を変形前の断面積で割った値です。つまり、S-N曲線で用いる応力は公称応力であります。

 

図2.応力振幅が一定の場合の繰返し応力

図2.応力振幅が一定の場合の繰返し応力

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

応力評価の方法

稼働中あるいは使用中の機械構造物の金属部材が繰返し応力を受ける場合に、その応力の大きさを評価する方法は多種多様と考えられますが、ここではその中で一般的な方法について述べたいと思います。主なものとして材料力学による解析、加速度センサーを用いた測定、ひずみゲージを用いた測定、有限要素法(FEM:Finite Element Method)による数値解析をあげることができます。

 

◇材料力学による解析

材料力学とは機械構造物に用いられる主に金属材料に関して応力と変形の関係などを解析する学問ですが、特に部材の断面にどのような応力が発生するかといった問題について多くの解析式が調べられています。

図3に最も基本的な事例として、断面が一様な物体の引張応力、せん断応力および曲げ応力(片持ち梁)を示しました。引張応力は力(荷重)の大きさPを力がかかる垂直断面積Sで割った値、せん断応力は力の大きさPを力がかかる平行断面積Sで割った値になります。一方、片持ち梁では付け根表面に発生する最大曲げ応力は力の大きさPと力の作用点から付け根までの長さLを掛け算した曲げモーメント(P・L)を断面係数Zで割った値になります。ここで、断面係数とは曲げモーメントと曲げ応力の関係について梁の断面形状から表すことができる係数のことで種々の断面形状についてその断面係数が公式集に用意されています。図3には円断面と四角断面の両者について断面係数Zを参考に示しました。

比較的単純な形状の機械構造物部材では材料力学を使った解析によって力学計算を行うことが可能です。

図3.引張応力、せん断応力、曲げ応力(片持ち梁)の事例

図3.引張応力、せん断応力、曲げ応力(片持ち梁)の事例

 

◇加速度センサーを用いた測定

加速度センサーとは加速度の計測を目的として運動の慣性を利用したセンサーです。加速度の値から振動あるいは衝突する際の物体にかかる力の大きさが求められます。加速度センサーには測定原理と機能面の両者で多種多様のものがありますが、最近ではMEMS(Micro Electro Mechanical Systems:微小電子機械システム)技術を使った小型デバイスの加速度センサーも実用化されており、ここでは検出部にピエゾ抵抗素子(圧力によって半導体などの電気抵抗値が変化する現象を応用した素子)を使用しています。数多くある加速度センサーの中で一般的にはおもりと圧電体を使った加速度センサーが有名であり、図4にその基本原理と測定例を示しました。

図中に示したおもりが垂直方向に相対的に振動するとおもりに接して配置された圧電体にかかる力が変化します。圧電体とは水晶などの物質に力がかかると力に比例して電荷(電圧)を発生する物体のことで、その効果を圧電効果といいます。振動によって生じる力を電気信号として検知し、加速度などを表示します。振動用には数G~数十G(G:重力加速度)のものが、衝撃用には数百Gのものが一般に使われます。

図中の測定例は車輪の衝突実験の例で、時間に対して加速度(G)を測定しています。衝突する物体の質量がわかっていますので質量と加速度を掛け算して衝突力の大きさが求められました。➡ 衝突力の大きさF=質量m・加速度a(F=ma)

図4.加速度センサーの基本原理と測定例

図4.加速度センサーの基本原理と測定例

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ひずみゲージを用いた測定

ひずみゲージを用いて負荷応力を測定する手法は最もポピュラーなものです。ひずみゲージは抵抗体の伸び縮みにより電気抵抗が変化することを利用してひずみ量を測定するセンサーです。ひずみゲージに用いる抵抗体には形状の違いから箔ひずみゲージ、線ひずみゲージ、半導体単結晶ひずみゲージなどがありますが、銅ニッケル系合金箔ひずみゲージがよく使われています。ひずみを測定して縦弾性係数(ヤング率)を掛け算すれば応力が求まります。ボルトにかかる応力評価でもボルト長手方向に開けた穿孔にひずみゲージを設置してひずみ測定できるボルト軸力用箔ひずみゲージが市販されています。

図5には、簡単な利用例として丸棒を引っ張った時の1素子単軸用ひずみゲージによる測定例を示しました。応力集中部の測定にはゲージ長さが1mm以内のものが使われますが、本事例では一般的なひずみ測定用のゲージ長さが数 mmのものを使います。円柱側面にゲージを軸心に注意して丁寧に貼り付けます。抵抗値の増加分ΔRは微小な大きさなのでブリッジ回路によって電圧の変化として測定します。ゲージ率は各ゲージパッケージに記載されており、ブリッジ回路による電圧値の測定でひずみを求めることができます。

図5.ひずみゲージの簡単な利用例

図5.ひずみゲージの簡単な利用例

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇有限要素法(FEM)による数値解析

有限要素法(FEM)とは微分方程式を近似的に解くための数値解析手法のことですが、対象とする物体を小さな領域である要素(メッシュという)に分割し、変位・ひずみ・応力の関係式を要素内で満足させるべく条件設定し、各要素における近似方程式を重ね合わせて全体の方程式を数値的に解く手法であります。いくつかの種類がある要素形状の選択とそれを使った要素分割、力や拘束などの境界条件の設定、物理定数の決定などの作業を行います。一般的に要素分割を細かくするほど計算精度が向上しますが、計算時間が長時間となります。

有限要素法(FEM)解析の長所と短所を図6に示します。

長所としては製品開発における強度設計においてコストと時間の大幅な短縮があげられます。強度設計において部品の形状や大きさを変えて検討する場合、その都度実験を行って応力測定すればコストと時間が相当かかってしまいます。この応力評価をFEM解析で行えばコストと時間をかなり削減できます。また、応力測定実験では測定部位がひずみゲージなどではピンポイントになってしまいますが、FEM解析では部品全体の応力分布が表示できます。現在では多くの構造解析ソフトが市販されており、使い勝手もよくなっているようです。

短所としては、①要素であるメッシュの設定作業などにある程度の経験が必要で手間のかかる作業であること、②計算結果がどの程度正しいかの誤差判断が難しいことが挙げられます。対処としては、類似構造物での材料力学による解析結果、あるいは一部実測を行った結果などを参考にしてFEM解析結果の妥当性を判断することになります。

図6.有限要素法(FEM)解析の長所と短所

図6.有限要素法(FEM)解析の長所と短所

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また、構造解析では特異点の問題があります。構造解析において角部や拘束端部で局所的に高い応力値が出る現象があり、特異点と呼んでいます。特異点ではメッシュを細かくするほど応力値が上がってしまいます。計算結果の応力値が予想よりもかなり大きくて特異点が疑われる場合は、特異点を避けて最大応力を求める必要があります。

また、構造解析では特異点の問題があります。構造解析において角部や拘束端部で局所的に高い応力値が出る現象があり、特異点と呼んでいます。特異点ではメッシュを細かくするほど応力値が上がってしまいます。計算結果の応力値が予想よりもかなり大きくて特異点が疑われる場合は、特異点を避けて最大応力を求める必要があります。

従って、モデル設定や解析条件を種々変更して解析を行い、得られた解析結果と別途行われる実験結果との整合性を検証し、これらのノウハウを蓄積することがFEMを最も有効に活用できることに繋がると考えられます。

 

 

疲労強度に関連する以下のねじ締結技術ナビ技術資料・コンテンツもあわせてご覧ください。

疲労に関連するねじ締結技術ナビコンテンツまとめ

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